女性の鼠径ヘルニアについて
成人女性の鼠径ヘルニアは、男性に比べると少ないとされています。そのため、医学的根拠による裏付けがまだ不足している部分がありますが、治療はもちろん、女性の場合は美容・整容性にも配慮した対応が必要です。
女性の鼠径ヘルニアは嵌頓(かんとん)する危険性が少ないといわれていますが、鼠径ヘルニアを根治できる方法は手術しかありません。しかし、女性の場合は手術後の傷が気になるという方も多いようです。当クリニックでは、手術の傷をできるだけ小さく、目立たないようにしています。手術には腹腔鏡(内視鏡)や太ももの付け根(鼠径部)を切開する方法などがありますが、いずれの場合もキレイに縫合いたします。ケロイド体質などでない限り、数カ月で手術の痕がわからないようになりますのでご安心ください。
女性の鼠径ヘルニアになりやすい方
- 痩せ型で高齢層
- 立ち仕事など、お腹に力がかかる仕事に就いている
- 激しい運動をしている
- 妊娠している
- 便秘症
- 喘息や慢性肺疾患がある
妊娠中の手術について
妊娠中の女性が鼠径ヘルニアになった場合、基本的に手術は分娩が終わってから行います。症状が強い場合は、妊娠4~6カ月以内を目安に子宮収縮の予防策を講じながら手術を行うケースもあります。お腹が大きくて手術操作が難しくなる前に対応していくことが必要です。
妊娠中は手術で使える薬剤が限られることに加え、嵌頓(かんとん)の危険性が増すことも考えにくいので、できる限り出産後に手術するという患者様が多いようです。
手術方法の選択
近年、メッシュ(人工繊維布)の普及によって、現在の鼠径ヘルニアに加えてこれから鼠径ヘルニアになりそうな範囲をすべて修復する、トータルリペアという考え方が生まれました。ただ、女性は鼠径ヘルニアを治した後、別の鼠径ヘルニアになる可能性は一般的に低いといわれています。
そのため、現在の鼠径ヘルニアに対する治療のみで十分だと考えられています。鼠径ヘルニアが大きい場合はメッシュを使う方法が適していますが、小さいヘルニアの場合などは、メッシュを使わない方法(従来法)でもメッシュを使った治療成果と比較しても遜色ありません。
鼠径ヘルニアと間違われやすい疾患
子宮内膜症
本来、子宮の中にあるべき組織が子宮以外で発育してしまう状態が子宮内膜症ですが、これが鼠径部にできることがあります。鼠径ヘルニアを併発していることもあるので、同時に治療を行うケースもあります。
ヌック(Nuck)管水腫
鼠径ヘルニアが併存している場合もあり、手術を行うこともあります。また、ヌック(Nuck)管水腫という診断をされたものの、実際には鼠径ヘルニアが嚢腫化したものであったというパターンもみられます。
子宮円索静脈瘤
妊娠中に発症したしこりや膨らみは、鼠径ヘルニアではなく子宮円索静脈瘤であることも多いです。それぞれ治療方針が異なるため、正しく診断することが大切です。超音波検査で確認することができます。
子宮円索静脈瘤は出産を終えると軽快することが多いので、まずは経過観察を行います。鼠径ヘルニアの併存や血栓が発生した場合、治療が必要になります。